池田後継を決めたパリでの会談

田原 吉田さんの次が鳩山内閣ですが、四元さんは小畑さんの紹介で、鳩山さんには会ったのですか。

四元 鳩山だけには会わなかったんだ。
田原 なぜですか。

四元 会う機会がなかったんだろうね。
田原 その鳩山さんが、日ソ交渉でモスクワに行くとき、吉田さんはたいへん反対したそうですね。

四元 吉田さんは「ハトヤマ」と聞いただけで不快な顔をするくらいだもの。


鳩山一郎(一八八三〜一九五九年)は自由党結党時の総裁。昭和二十一年、公職追放となり吉田茂を後継に指名するが、復帰後は吉田とライバルとなり、昭和二十九年に脱党して日本民主党を結成、吉田退陣に追い込み後継首班についた。昭和三十年の保守合同で自由民主党総裁となり、同年、日ソ国交回復を実現させた


田原 岸信介さんも嫌いだとか。

四元 そうだ。


岸信介(一八九六〜一九八七年)は戦前の商工官僚。革新官僚として頭角を現わし、東條内閣の商工大臣。戦後A級戦犯として逮捕されるが、昭和二十七年に衆院議員として政界復帰。鳩山内閣成立に助力した。昭和三十二年、鳩山退陣後の総裁選で石橋湛山に敗れるが、石橋の病気退陣で首相となり日米安保条約改定に尽力する。いわゆる安保騒動で退陣。


田原 先にお話に出た岸内閣の末期、四元さんはパリで吉田さんと会われた際、次の後継総裁をどうするか、話し合ったそうですね。

四元 出しゃばるつもりはなかったのですが、僕は池田勇人とは仲がよかった。佐藤とも仲がよかったんだが、二人はライバル関係にあった。で、池田が、パリで吉田さんに話をしてもらえないかと頼んできたんだ。次の総裁は池田だと僕も思っていたから、引き受けた。

 そのとき、「佐藤のところをどうしようか」とわざと言った。すると池田が「行かんでもいいんじゃないですか」と言ったが、僕はあえて佐藤のところに行った。「今夜、吉田さんに会いにパリに行く」と言ったら、佐藤は驚いていた。そして、「それは要するに、吉田の爺さんに、(後継者を誰にするかという)処方箋を書いてもらいに行くんだな」と言った。「そうだ」と答えた。

そこで佐藤が「それが四元処方箋にならんように頼むよ」と言った(笑)。僕は笑い飛はして「ばかなことを言いなさんな。吉田さんは、他人の言うことを聞くような人じゃないが、しかし、俺は自分の信ずるところは言う」と言った。すると、佐藤は「それは、結構」と言った。見直したな。あのとき佐藤のところに行かなかったら、その後の佐藤と俺との友情は続かなかっただろうね。

 

で、吉田さんから外務省に「ヨツモト、コイ」と電報を打ってもらって、すぐにパリに飛んだ。

田原 どんな話をしましたか。
四元 後継は池田がいいんじゃないか、ということだ。吉田さんも「そのとおり」と、一言も反対しなかった。



田原 で、池田さんは後継総裁になるわけですが、池田さんが首相になって、日本の政治が大きく変わります。岸さんや鳩山さんは憲法を改正して再軍備しょうと言っていましたが、池田さんからは、「憲法改正」を言わなくなりました。

四元 それだけ池田が現実派だということですょ。僕も現実派だよ。憲法なんて上手に使えばいいんです。都合の悪いところだけ直せばいい。

田原 でも四元さんはもともと民族派、いわば右翼出身でしょう。憲法改正派かと思っていましたが。
四元 いや、僕は右翼じゃないです。あえて言えは、右のさらに右、左のさらに左。

田原 憲法は改正しないほうがいいと思ってますか。

四元 今はもう、いじらなくてもいいでしょう。

田原 で、池田さんの後の佐藤内閣は戦後最長内閣ですね。

四元 やっばり頭がいいんですな。中曽根よりはるかに頭がいい。
田原 頭がいいというのは……。

四元 先が見えるということでしょうね。頭のいい、悪いは一緒に食事をすればわかる。うまいものを食わして昧のわからん奴は頭が悪い。竹下は味がわかるな。彼は頭が悪くない。中曽根は頭がよくない(笑)。

田原 味がわからない(笑〕

四元 佐藤のほうがまだいいですね。

田原 そこが中曽根さんの魅力かもしれませんね。

四元 でも、もう魅力なくなったんじゃないかな。

田原 だめですか。

四元 佐藤孝行のような悪い奴を信用しているようではね。

佐藤栄作との話で面白い話がある。僕が吉田さんに岸のことを「糞土の牆(しょう)はぬるべからず」と言ったことを、彼が大蔵大臣になったときに話したら、佐藤は「焚き物ぐらいにほなるだろう」と言ったよ(笑)。彼も負け惜しみが強いから。でも、実の兄貴だからね、僕も悪いことを言ったよ。


・佐藤栄作(一九〇一〜七五年)は岸信介の実弟。昭和二十三年、運輸官僚から政界に転じ、内閣官房長官、政調会長、幹事長、建設相として吉田を支えた。昭和三十九年に池田勇人の後継として首相となり、昭和四十七年まで長期政権を維持した。


次に進む    先頭に戻る